一日三回飲んじゃいなさいと
書いてあるカラフルな錠剤を口に含み
透明なグラスに入った常温の水で
喉の奥へと流し込む
ベッドに倒れこめば
「…だる」
しか口から出てこない
親にむりいってさせてもらった夢の一人暮らし
思い描いていたゲイキャンパスライフとは
180度違ったマイライフ
彼氏もいないし友達と呼べる友達もいない
最近覚えたゲイバー飲みで羽目をはずして
うっかり風邪をひいてしまってアーメン
「ツライヨー」
なんてつぶやくもんなら
『あたためようかww』
『下の世話はおれが』
『○○』
なんて下心丸見えのリプライ羅列
俺まじ幻滅
なんだか少しボーッとする
《ジリリ……リリ!》
インターホンが鳴る
『-おっす-』
液晶パネルにはスーツ姿の元彼
「なに」
『-なにとはなんだよ-』
「いま体調くずしてんの」
『-知ってる-』
ホラと、手さげをもちあげ
『-さしいれ-』
解錠ボタンを押す
「現金なやつだな」
ドタドタとカバンを置くと
差し入れの栄養ドリンクやら
クールな代物がゴロゴロ
「サンキュー」
「学生は気楽でいいなぁ」
「嫌みか」
「同い年なのに就職したおれは毎日大変だからさ」
「ふーん」
「うらやましいけど」
高校時代掲示板で知り合った元彼は
営業回りをしているらしい
「んじゃ、行くわ」
「え、もう行くん?」
「おまえみたいに風邪ひいてらんねーの」
ニカッと笑う元彼は
じぶんよりも少し大人にみえて
なんだか少し緊張した
「…」
「なに、惚れた?」
「はぁ…!?」
「冗談だよ、フラれたのおれだし」
立ち上がる元彼
顔が赤くなる俺
「じゃ、お大事に」
もっと大人なやつがいいと
わがままいって別れたのは俺だ
でも思い返せば受験のときだって
家庭環境が悪くて泣いてたときだって
どんなときだって
いつもはなしを隣で聞いてくれていたのは
玄関が閉まる
階段を降りる音が聞こえる
「アホ」
涙がポロポロでてくる
あのときあの場所で
小さな強がりでフッたりしなければ
今ごろ
「泣いてたりして」
声の先には元彼
扉を少し開けて笑いながら
こっちを眺めている
「!!!」
さいあく
さいあく
「…うっ…」
おえつを漏らす俺
頭かきながら笑う元彼
「わかったよ、もう少し居てやるよ」
抱きしめられ
肩を叩かれた俺は
おそらく学ランを着ていた高校時代の俺と
おんなじ顔をしていたに違いない
白黒だった思い出は
キラキラとカラフルに彩り始める
この恋 副作用につき
用法容量を守って
正しくお飲みください
《ジリリリリリリリリッ!》
目が覚めると
全身嫌悪感
そしてほんの少し
心に淡い微熱をもたらしていた
「…だる」