「大前さん、今日、やけにオシャレじゃないですか。」
そう言いながら俺にコーヒーを渡した。
「え、いや普通だよ。なんで。」
「だって、そんな色のスーツ持ってなかったし、靴も新調したやつですよね、それ。」
「お前よく見てるな〜。先週末買ったんだよ。
冬物のスーツあんまり持ってなかったから。」
「ふ〜〜ん。でも、それだけじゃないですよね。
大前さんには珍しく、香水つけてる。。。。しかも、この匂い、、、David offじゃないですか」
小東は目を瞑って、わざとらしく鼻を動かした。
「完敗だよ。お前には。」
「で、今日は誰とディナーなんですか。」
腕を組みながら、俺に問いかけてくる。本当にどっちが上司で部下か分からない構図になっている。
「いや、たいした相手じゃないよ。」
いや、「たいした相手」である。
そう、今夜は孝太さんと渋谷で会う約束をしている。
先月、社内メールに連絡がきて、会おうか悩んだ挙句、結局会うことにした。
もちろん、会うと決めるには葛藤があり、ショータや拓斗にも相談した。
二人からは「昇さんが会いたいんだったら」と背中を押してくれたものの、一点だけ約束してほしいと言われた。
それは、
絶対に泊まらないこと。
もちろんと俺は言ったものの、どこかで期待していて、それをあっさり破ってしまうのであろう自分がいた。
【午後7時過ぎ】
新宿駅から山手線に乗り、渋谷駅につくと道玄坂に向かう。
相変わらず渋谷は若者が多く、華金のわりにスーツをきたリーマンは少なく感じた。
今夜のお店は、渋谷駅から10分ほど歩き繁華街から離れたところにあるスペインバル。
苦手な渋谷だったため、この一週間様々なところから情報を得て決めた店である。
ふと空を見上げると、渋谷のビルの間から満月が見えた。
「しっかりしろ、自分。」
ボソリと呟き、店を目指した。
集合の10分前に店につき、席に案内されるとすでに孝太さんがおり、こちらに向かって右手を挙げた。
グレーのスーツが彼をより知的に見せる。
そういえば、孝太さんのスーツ姿ってあんまり見たことなかったなと、昔の記憶が走馬灯のように頭の中で繰り広げられた。
「すみません、孝太さん。待ちました?」
「そんなことないよ。俺もさっききたところだよ。仕事お疲れ様」
ニコッと笑う孝太さん。
俺は何度も見たことのある顔なはずなのに、メニューに視線を落とし、気持ちを落ち着かせた。
「なに、飲みます?」
「とりあえず泡頼んでから、赤にしようか。肉料理だしね。」
「オッケーです。孝太さんと食事いくと決めるの早いから助かります。」
「昇が、かなり優柔不断だからね。」
と、またさっき見せた笑顔を俺に放った。
せっかくだからとシャンパンをボトルで頼むと、すぐにウエイターがボトルを持ってきて、二つのグラスに注いでくれた。
「じゃ、再会に乾杯。」
「かんぱーい」
コツンとグラスを交わすと、お互い一口飲んだ。
そして、二人の目の前に鉄板が置かれ、様々な種類の肉がその上に置かれた。
「うまそうですね!」
「うん。昇、センスあるお店ありがとね!」
「とんでもないです。」
と二人して好きな肉を各々皿によそった。
ふと、肉を切っている孝太さんの手を見ると、左手の薬指に指輪がなかった。
「あれ、孝太さん。指輪は。」
「あ、うん。。。。たまたま家に忘れてきちゃって。」
「そんな大事な物忘れますか、ドジだな〜。」
と笑って返したものの、
心のなかで、、、、マッチの火が付くような、なんとも言えない感覚を感じた。
窓から外を見ると、高層ビルの間から満月が何か言いたげ俺を見つめていた。
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