出会ってから二ヶ月が経過したくらいだった。ケイタくんのバイトも順調で初めての給料で僕にカレーを作ってくれた。
豚肉が入ったカレーがちょっと新鮮だった。僕は関西出身だからカレーの肉は牛肉が当たり前だと思ってたから、これはケイタくんに教えてもらったことかな。
その日はカレーも美味しくて、僕は久しぶりにお酒も飲んですごくいい気分だった。風呂も入って幸せな気分で布団を敷いてた時だった。
襖を開けてケイタ君が入ってきた。『どうしたの?』と僕が聞くと「今日、一緒に寝てもいいですか?」とケイタくんが聞いてきた。
僕はドキドキしたけど…やっぱりいけないと思い『布団一つしかないから、自分の部屋で寝た方がいいよ』と返した。「一緒に…寝たいんですけど…ダメですか?」とそれでも引き下がらない。
「いつも一人で寝てるけど、今日は一緒にいて欲しいんです…あっちは静かすぎて…一人みたいで嫌なんです」とケイタくんが矢継ぎ早に言った。
僕の家は横長の間取りで、ケイタくんが使ってる部屋は一番端の部屋。間の部屋は特に何も使ってない部屋が2つ。
確かに僕がいるリビングまではだいぶ遠いから人の気配がしないのは分かる。だから二ヶ月も一緒に暮らしてもお互いにストレスにならなくていいんだと思ってけど…ケイタくんは寂しかったのか。
それにしても、いつもと雰囲気が違うケイタくんに僕は戸惑った。
ケイタくんは襖をそのまま閉めて、僕の布団に潜り込んできた。やっぱり何か様子がおかしい。きっと彼にとって何か嫌なことがあったのかな。僕は何も言わないで一緒に布団に入った。
僕はケイタくんの事をほぼ何も知らない。本名と以前の住所だけしか知らない。なんで東京にいるのか、家族とは何があったのか、なんでこんな暮らしをしているのか…何も聞かなかった。
聞いても僕には彼の人生に何の責任も負えないから。だから、僕はケイタくんの身の上を何も聞かなかった。ケイタくんも特に何も話さなかった。
その日はケイタくんと初めて一緒に寝た。ボティソープのいい匂いがする。同じものを使ってるけど、こんないい匂いがするものなんだなと思ったのを覚えてる。香りがとってもいい!という口コミを見て買った高級価格帯のボディソープ。
買って帰った日に使ってみて、なんだ…こんなもんか。何がそんなに良い匂いがするんだろう?と僕は疑問だった。
そうか…これは自分が使って良い匂いがするって思う物ではなく、誰かが使って良い匂いがする!と感じるものなんだ。
そんな事、一人で生きていてもきっと気づかなかっただろうな。